【前編からの続き】
■ ピンストライプアートというと、シンメトリー(左右対称)な作品がベーシックだと思うのですが、KENさんのそれらからは、その概念を覆すと言っていいぐらいの独創性を感じます。
描かれる時に意識されている事ってあるのですか?
KEN:
国内外いろんなピンストライパーがいて、アメリカのイベントだと100人ぐらいのピンストライパーが集まるんですよ。
その中でも、50〜60年とかやってるいわゆるレジェンドのピンストライパーって、もうお爺ちゃんなんだけど、ちょっとしたデザインひとつ見ても「あ、あの人が描いたんだ!」ってわかるんですよね。
自分が描き始めて何年かした頃から、やっぱりそれがひとつの目標にあって。サインが書いてなくても、見た人が「あ、これKENさんが描いたんでしょ」って言ってもらえたら勝ちというか「よしっ!」って思える事だなぁと思っていて。
それで勿論、基本はあるんだけどどこか自分らしさを出したいなというのが常にあって、とにかく人と違った感じにしようと思っています。
ピンストライプってすごく歴史があるので、トラディショナルな手法を追求して描いてるピンストライパーも大勢いるんだけど、自分のスタイルはどちらかというとニュースクールだと思っていて、ピンストライプで何か新しい事が出来ないかっていうのを常に模索しながら描いてますね。
あとは描く時に一番意識する事はバランスかな。左右対称の美しいバランスもあるし、それをわざと崩した時の絶妙なバランスもあるし。
ピンストライプをあまり知らない人から「左右対称に描くのがすごいですね!」ってよく言われるんだけど、実は自分自身あんまり意識してないんですよ。
コンピューターの様に正確に左右対称を描こうとは思ってなくて、完成した時にちょっと歪んでても、何となく全体のバランスが良ければそれでカッコいいなって思ってて。
だからわざと左右対称じゃなくするっていうのもそこを狙って描いてますね。
■これまでKENさんが描かれたいろんな動物や生き物モチーフの作品を見てきましたが、その動きや表情がどんどん進化していると感じるのですが?
KEN:
そうですね、毎日一生懸命描いてるので。笑
職人さんもよく言うんだけど、お客さんには悪いけどやっぱり日々の本番が一番の勉強だし練習なんですよね。
有名なピンストライパーのエド・ロスが遺した「ピンストライプは日記みたいなものだ。」という言葉があるんだけど、要は体調が悪い日に描けば、線が歪んだり迷いが出ることもあるし、逆に乗りに乗ってる時は、脳と右手が直結するってぐらい何にも考えずに「よっしゃ!」って線がバシッっと描けたりする。それら全部をひっくるめてお前の作品なんだよっていうのがその言葉の真意だと思うんだけど、その言葉を意識しながら描いてますね。
それと動物がモチーフの時は”筋肉”を描こうと思ってるんですよ。
自分が美大を受験する時、予備校で何枚も何枚もデッサンを描いて、ダメ出しされまくって半べそかいてという経験が、今でもほんとに活きていて。
当時デッサンで肉付けしていたのを、今はピンストライプという技法に置き換えて描くって事をイメージしながら、毎回生き物を描くごとに、修行を積んでる様な気持ちで描いています。
■お客様からオーダーを受ける時は、どの様な流れでデザインを決めていくのですか?
KEN:
すごく絵心があったり、ピンストライプについて詳しいお客さんだと、予め自分でイメージを作ってきてくれるんだけど、大体のお客さんって、出来上がりをイメージして「こんな風に描いてください」って伝えるのはなかなか難しいと思うので、それを引き出してあげる様に、なるべくいろんな会話をするようにしてますね。
例えば、どんな色が好き?とか、オートバイ乗ってんの?とか、どんな車乗ってるの?とか。
短い間だけど、趣味趣向からヒントを得るようにしていて、釣りするんですよって人だったら魚描いちゃえば?とか、海が好きなんですって人だったらじゃあブルー系でいこう!とかね。
ピンストライパーって、ファインアーティストと違い、基本お客さんの物に描く事が多いじゃないですか。
となると、それを使うお客さんが気に入ってくれないとお話にならないので、僕の描きたいイメージは二の次で、まずはその人の微かにあるイメージを聞き出して、それを形作ってあげる事がゴールなんですよね。
それで完成した時に、そのお客さんが「カッコいいです!」「最高です!」なんて言ってくれたら、それが何よりやってて幸せな事だと思うし、それを常に目指して組み立てていくって感じですね。
■10年前にも一度KENさんにインタビューをさせていただきましたが、当時を振り返ってみて作品を描かれる上で、今でもブレずに貫いてきた部分はありますか?
KEN:
そうですねえ、とにかく自分のスタイルを確立させるという事をいつも意識するってところですかね。
僕は今27年目で、10年前というと何となく自分のスタイルが出来てきて、認知され始めた頃だったと思うんですけど、そこに関しては今もその頃と変わらない気持ちで描いてますね。
あとはやっぱり常にもっと上手くなりたいし、何か新しい事を取り入れたいという気持ちも当時と変わってないですね。
■ピンストライプアーティストとして今後の展望はありますか?
KEN:
さっきも少し話したけど、アメリカに行くと1950年代から描いているお爺ちゃんのピンストライパーっていっぱいいるんですよ。
80歳ぐらいの人で、仕事歴でいうと60〜70年選手が当たり前の様にいて、それと比べると僕なんかまだたったの27年なんですよね。
なので、まだまだお爺ちゃんになってもやれる仕事だと思ってるんで、とにかく永く、死ぬまで描いていたいなって思いますね。
かの葛飾北斎も「あと何年か生きれたら俺はもっとすごくなる」というようなニュアンスの言葉を遺してるじゃないですか。
僕も常にそういう気持ちで、あと20〜30年描き続けて達人になりたいですね。
【KEN THE FLATTOP】
1969年 横浜市生まれ
ピンストライパー / アーティストとして、車・バイク・サーフボード等のカスタムペイントを手掛ける他、これまで数多くの企業・ブランド・ショップのサインペイント・ロゴ・キャラクター、CDジャケット等のデザインも手掛けている。
2006年と2012 年に英国Korero Booksより発行された「PINSTRIPE PLANET」及び「PINSTRIPE PLANET 3」では、世界各国を代表するピンストライパーの1人としても紹介され、アメリカ、ヨーロッパを始め海外のアートショーにも多数参加。
世界中のピンストライパーやサインペインターが愛用するアメリカのブラシブランド「Mack Brush」社からシグネチャーモデルが発売される等、トラディショナルな技法とオリジナリティを融合させた唯一無二のスタイルは、国内外・世代を問わず多くのアーティストや根強いファン達から支持され続けている。
■OFFICIAL WEB SITE
■Gold Fish Bowl
■Interview / Text / Photo
by YOSHIWO NISHIMURA
KOTOBA RELATION Supported by
ARCHIVES
-
modern times presents 『One’s Mind of RIARU ITO』【後編】
-
modern times presents 『One’s Mind of RIARU ITO』【前編】
-
「サーファー達の目を守る」創業113年のメガネ商社が開発した高品質日本製サングラス