著書「原宿ゴールドラッシュ」や「ドロップアウトのえらい人」など 1970年代より今日まで、永きに渡り作家・エディターとして活躍する 森永博志さん に、ご自身がプロデュースされた企画展「人は縫う、命と心を守るために展」についてお話を伺いました。
■ まず今回プロデュースされた企画展、「人は縫う、命と心を守るために展」は、世界的な人気を誇るファッションブランド「ANREALAGE」と、福島県南相馬在住、82歳の素人パッチワーク作家 「佐野博子」さんとのコラボレーション展覧会という内容ですが、そもそも開催された経緯についてお聞かせください。
森永(以下:M)
3.11の後、津波で家が流されて、原発事故で帰宅困難地区になって、福島県内を転々と移り住んでいたご夫婦とたまたま親しくなったのね。
そこから、そのご夫妻が当時住んでいた帰宅困難地区にプライベートで何度も現状を見に行ってるんだけど、5年ぐらい前だったかな、そこから程近い南相馬の民芸館にご婦人達が集まって、とても小さな規模で手芸品のフェアみたいな事をやってたの。
そこに佐野さんのパッチワーク作品が飾ってあって、観た瞬間、あまりの凄さに衝撃を受けて。
すぐに写真撮って、僕の甥っ子でもあるANREALAGEのデザイナー森永邦彦にメールで送ったわけよ。「凄いパッチワークがあるぞ!」って。
そしたら邦彦もそれを見て「これは凄い!」と。
それでいつかコラボレーションで展覧会が出来たらいいなぁって思ってて、今回実現したんだよね。
■ ANREALAGEは、今やFENDIともコラボレーションするようなパリコレブランドで、佐野さんは言わば素人のお婆さん作家ですが、あえて両者を合わせる意図的な部分はあったのでしょうか?
M:
それは、やっぱりANREALAGEは知名度も人気もあって、佐野さんは全く無名だからね。
沢山の人達に展覧会に来てもらって、佐野さんの素晴らしいパッチワークを観てもらうためには、ANREALAGEと組んだ方が良いと思ったんだよね。
■ 森永さんから見た、佐野さんのパッチワークの魅力とは?
M:
パッチワークってこれまで伝統っていう部分を踏まえて成立していると思ってたのが、佐野さんの作品はデザインそのものが全く斬新だったので、まずそれがびっくりしたよね。
普通だと民族っぽくてフォークロアな感じになるんだけど、全くそれを感じさせないモダンなところがあって。もはや現代アートだなぁって。
あとは使用している生地が全部、古布(こふ)という江戸時代の着物とかに使われてたシルクなんだけど、それを佐野さんが福島以外に京都や金沢にも行ってずっと集めてて。
小さいものでも5000円ぐらいするから作品1枚作るのに何十万円もかかるって言ってたよ。
■ 展覧会のコンセプトとされている”縫う”という事についてお聞かせください。
M:
数年前、ある博物館に何万年も前の壁画を観に行ったんだけど、その壁画が発掘された時に一緒に出てきたという2万年前の人類が作った「縫い針」が一緒に展示されていて、それを観て衝撃を受けてさあ。
カタチは今の針とそんなに変わらないのに、骨で出来ていて。
まだ鉄を使う文明もないのに、何で骨に穴を空けて針にしたのかなぁ?っていう謎がすごく面白くて。
”縫う”っていう事についてはそこからずっと考えてはいたね。
■ 森永さんご自身もパッチワークやワッペンで作品を作られていますよね?
M:
縫うのが好きなんだよね。うちのお袋が洋裁店やってたから多分その影響だと思う。
家の一角が店になってて、そこにお客さんが来てお袋が洋服を作ってたのをずっと見てたから、”縫う”っていう事がすごく日常的だったんだよね。
■ タイトルにある「命と心を守るために」というのは?
M:
それは、まず2万年前に人類が縫い針を発明したのが氷河期で寒さから身を守るためであるという事。
そして今回展示している、ANREALAGEの”祈りのドレス”は「同じ明日が来ますように」という想いを込めて5000個以上のボタンが縫い付けられた作品だし、佐野さんのパッチワークも3.11の時に人々の無事を願ってひたすら縫っていた作品。
震災の時に佐野さんは、”心”を失くしたくないからずっと縫ってたんだろうね、心を込めて。
料理とか物を作る時、よく”心を込めて”って言うよね、佐野さんのはその究極じゃないかな。
”心を込めて”。。。
■ 森永さんは、執筆活動やプロデューサーとして事・場所・言葉を生み出し続けられていますが、普段の頭の中ってどんな事を考えているのですか?
M:
俺はとにかく一日一日の感覚でしかないから、昨日のことは全部忘れちゃうし、明日の事も何も考えてない。笑
今日目が覚めてから眠るまでの一日が全てなんだよね。
その中で基本的に2時間〜4時間歩くんだけど、その時にいろんなものが浮かんでくる。それが新しいとか面白い事になるかというのは結果であって、とりあえず何かひらめくんだよね。
それを忘れてしまわない様にすぐにメモするんだけど、一日に20個書いたらその中の5つぐらいは仕事になるようにしてるかな。
■ 永きに渡り活動してこられた上で、ここはブレていないという部分などありますか?
M:
いや、昨日の事も忘れちゃうぐらいだからよくわかんないんだよね。ブレてんかもしれないし 笑
振り返ってみて共通してるって事も特にないし、ほとんどがその時その時の”ひらめき”だね。
三國連太郎さんも言ってたんだよ、あれだけ最後の最後まで役者やってキャリアのあった人が「”ひらめき”しか信じられない」って。
一瞬のひらめきをすぐにいろんな人に投げて、それがカタチになっていくのが面白いですよ。
■ 今回の展覧会を通して、届けたいメッセージはありますか?
M:
やっぱり物作りは一線を超えないとだめだと思う。
ある意味、気が狂ってると思わせる様な狂気がないとアートとは言えない。クリエイティブとは言えない。
それは今回のANREALAGEの作品にしても佐野さんのパッチワークにしても一線を超えているよね。
多分デジタルには出来ないと思うんだよね、一線を超えるって。
やっぱり人の中に宿ってるものだよね。
「火事場の馬鹿力」とかって言うしさ。あるんだよね、そういうの。。。
■ 「人は縫う、命と心を守るために展」の今後の展望についてお聞かせください。
M:
今回、東京で開催した初日の段階で、あるアートプロデューサーの目に入り金沢での開催が決定した。
あとはパリと通じている別のプロデューサーからも是非パリでやりたいという話になっているし、地方での開催の話がいくつか来てる。
まあ、最終的な目標はパリのエルメス芸術財団に佐野さんのパッチワークをコレクションしてもらえればいいかなと思ってる。
というのも、エルメスのスカーフは元々福島のシルクで作られてる。
福島は世界でも最高級のシルクを作るという歴史があって、世界のシルクを使った商品の約80%が福島のシルクを使ってたんだよね。
それが原発事故で生産活動が一時壊滅しかかったんだけど、今また少しづつ復興してきているのでその意味も込めてね。
今回の東京展は、コロナの影響もあって佐野さんに観てもらう事ができなかったけど、コロナが落ち着いたら必ずどこかの展覧会で観てもらいたいよね。
そのためにも世界を視野に今後どんどん発信していきますよ。
【森 永 博 志】
1950年生まれ、作家 / エディター。
これまで数々の音楽雑誌、文芸誌、ストリートマガジンにて編集長を務め、創刊当時の『POPEYE』『月刊PLAYBOY』『BRUTUS』で特集記事を担当していた編集者としても知られる。
代表的な著書は『原宿ゴールドラッシュ』『ドロップアウトのえらいひと』他多数。
その他、様々な企画プロデュースやラジオDJの他、70歳を機にアート活動をはじめ、現在年間で3000点の作品を制作、個展も活発に行っている。
■Interview / Text / Photo
by YOSHIWO NISHIMURA
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